本書は大きく言って二つの目的がある。ひとつは、民俗技術とはどのようなものなのか検討し、それが現代社会の中でいかなる意義を持っているかを考察することである。そしてもうひとつは、本書で民俗技術として注目するエリと呼ばれる大型の迷入陥穽漁具について歴史的展開を跡付けながら、それが現在にまで伝承されてきた理由を究明することである。一つ目の目的に関しては、2004年の文化財保護法改正により「民俗技術」が民俗文化財指定の要件に追加されたことで、あらためて研究者が民俗技術に関心を寄せるようになった。
しかし、民俗技術については文化庁の指針を唯一の拠り所とするだけで、きちんと議論なかった。本書では、民俗技術について原理的検討を加えた上で、その記録保存の手法として民俗技術誌を提唱する。民俗技術誌の試みは、①人と自然との関係②人と人との関係③人と社会との関係という3つの側面から立体的に民俗技術の特性を描くものである。二つ目の目的は、日本において世界的に見ても希なほど大規模化・複雑化した陥穽漁具のエリを例にして民俗技術を生業史の中に位置づけることである。筆者はこれまで稲作と漁撈との複合生業の様相から日本の稲作の展開史に関する研究を進めてきた。
そこで明らかになったことは、日本の稲作を高度な単一化(稲作への特化)へと向かわせた最大の要因が、漁撈を稲作の内部に取り込んだことにあると考える。そうした漁撈の内部化に大きな役割をはたしたのが小型の陥穽漁具のウケ(筌)であったが、そのウケに対し、本書で取り上げるエリはまったく別の展開を示した。
つまり、エリの場合、生計活動が稲作へ特化するとともにウケのように内部化されるのではなく、反対に稲作農民の生業技術の体系から外れていったと考えられる。この点を明らかにし、日本における生業史の中にエリを位置づける。具体的に本書の内容を示すと、まず初めに、琵琶湖(滋賀県)・木崎湖(長野県)・涸沼(茨城県)という3地点の迷入陥穽漁法について、それぞれ民俗技術誌を描き、それらが生み出され伝承されてきた技術的背景を分析する。
また、全長1200メートルを超えるほどに大規模化・複雑化した琵琶湖の迷入陥穽漁法について、その先進性を木崎湖および涸沼の迷入陥穽漁法と対比して論じる。続いて先に示した3地点(琵琶湖、木崎湖、涸沼)の迷入陥穽漁法に対応して、それぞれの地域で迷入陥穽漁法が伝承されてきた社会的背景について、地域住民の生活環境誌を描くことで明らかにした。
そのとき、生活に占める低湿地の意味と、そこで展開される農と漁の複合生業にとくに注目して生活環境誌を描いている。さらに、3地域の民俗技術誌と生活環境誌を受けて、まずは先進地である琵琶湖において迷入陥穽漁法が大規模化・複雑化してゆく歴史展開について論じた。
その上で、先進地の琵琶湖と後進地である涸沼・木崎湖と比較することで、迷入陥穽漁法の起源と展開について論じた。その結果、迷入陥穽漁法の歴史展開には、①ヨシ場(低湿地)内の漁②ヨシ場と湖面との接点における漁③湖面での漁という3つのステージを設定することができることが分かった。
しかし、民俗技術については文化庁の指針を唯一の拠り所とするだけで、きちんと議論なかった。本書では、民俗技術について原理的検討を加えた上で、その記録保存の手法として民俗技術誌を提唱する。民俗技術誌の試みは、①人と自然との関係②人と人との関係③人と社会との関係という3つの側面から立体的に民俗技術の特性を描くものである。二つ目の目的は、日本において世界的に見ても希なほど大規模化・複雑化した陥穽漁具のエリを例にして民俗技術を生業史の中に位置づけることである。筆者はこれまで稲作と漁撈との複合生業の様相から日本の稲作の展開史に関する研究を進めてきた。
そこで明らかになったことは、日本の稲作を高度な単一化(稲作への特化)へと向かわせた最大の要因が、漁撈を稲作の内部に取り込んだことにあると考える。そうした漁撈の内部化に大きな役割をはたしたのが小型の陥穽漁具のウケ(筌)であったが、そのウケに対し、本書で取り上げるエリはまったく別の展開を示した。
つまり、エリの場合、生計活動が稲作へ特化するとともにウケのように内部化されるのではなく、反対に稲作農民の生業技術の体系から外れていったと考えられる。この点を明らかにし、日本における生業史の中にエリを位置づける。具体的に本書の内容を示すと、まず初めに、琵琶湖(滋賀県)・木崎湖(長野県)・涸沼(茨城県)という3地点の迷入陥穽漁法について、それぞれ民俗技術誌を描き、それらが生み出され伝承されてきた技術的背景を分析する。
また、全長1200メートルを超えるほどに大規模化・複雑化した琵琶湖の迷入陥穽漁法について、その先進性を木崎湖および涸沼の迷入陥穽漁法と対比して論じる。続いて先に示した3地点(琵琶湖、木崎湖、涸沼)の迷入陥穽漁法に対応して、それぞれの地域で迷入陥穽漁法が伝承されてきた社会的背景について、地域住民の生活環境誌を描くことで明らかにした。
そのとき、生活に占める低湿地の意味と、そこで展開される農と漁の複合生業にとくに注目して生活環境誌を描いている。さらに、3地域の民俗技術誌と生活環境誌を受けて、まずは先進地である琵琶湖において迷入陥穽漁法が大規模化・複雑化してゆく歴史展開について論じた。
その上で、先進地の琵琶湖と後進地である涸沼・木崎湖と比較することで、迷入陥穽漁法の起源と展開について論じた。その結果、迷入陥穽漁法の歴史展開には、①ヨシ場(低湿地)内の漁②ヨシ場と湖面との接点における漁③湖面での漁という3つのステージを設定することができることが分かった。
[目次]
序 論 民俗技術誌の提唱―本書の目的―1
1 民俗技術という視点 1
(1)民俗技術とは
(2)民俗技術と創意
(3)民俗技術が作る「自然」
(4)民俗技術にみる循環の思考
(5)民俗技術が志向するもの
(6)方法としての民俗技術誌
2 民俗技術と現代社会 7
(1)文化財としての民俗技術―失われつつあることへの危機感―
(2)民俗技術を研究することの意義―フェイクロア化することへの危惧―
3 エリという民俗技術 9
(1)エリとは
(2)生業史の中の位置づけ―稲作との関係―
(3)3地域のエリ型漁具―琵琶湖、木崎湖、涸沼―
Ⅰ 迷入陥穽漁法の民俗技術誌17
Ⅰ-1章 エリの民俗技術誌―琵琶湖(滋賀県)の迷入陥穽漁法―18
はじめに―エリ伝承地の概観― 18
1 琵琶湖のエリ―概観― 19
(1)「魞の親郷」としての木浜
(2)エリをめぐる権利関係の変遷
(3)エリをめぐる人間関係の変遷
2 エリをめぐる技術①―エリの造形― 25
(1)基本の型と構造
(2)型の決定要因
3 エリをめぐる技術②―エリの建造― 38
(1)トウリョウの役割
(2)エリダテの準備
(3)エリダテの実行
4 エリをめぐる自然認識―トウリョウの自然的技能― 47
(1)エリダテと自然認識(概観)
(2)シオ(潮)とシオミ(潮見)
(3)カゼ(風)とケシキミ(気色見)
(4)セ(瀬)とミズアタリ(水当たり)
(5)魚の生態(トウリョウの認識)
(6)ケントウ(見当)
5 エリをめぐる人間関係―トウリョウの社会的技能― 58
(1)エリが繋げる人と人(概観)
(2)トウリョウとオヤカタ(経営者・出資者)
(3)トウリョウとコカタ(木浜の男衆)
(4)トウリョウとスアミ(木浜の女衆)
(5)トウリョウとタケワリ(木浜の老人)
(6)トウリョウとトウリョウ(縄張りの存在)
(7)トウリョウと漁師(エリ漁師以外)
(8)金銭をめぐる人間模様(テマとシュウギ)
6 民俗技術としてのエリ①―トウリョウの系譜― 74
(1)トウリョウの技術と継承
(2)トウリョウと稲作農民の関係―予察―
7 民俗技術としてのエリ②―エリの系譜― 78
(1)エリの技術・労働・資本
(2)エリの起源と展開―予察―
Ⅰ-2章 ガンゴジの民俗技術誌―木崎湖(長野県)の迷入陥穽漁法―86
はじめに―ガンゴジ伝承地の概観― 86
(1)ガンゴジを伝える村、海ノ口
(2)ガンゴジ漁がおこなわれる湖、木崎湖
1 木崎湖のガンゴジ―概観― 88
(1)ガンゴジという名称
(2)ガンゴジの由来
2 ガンゴジをめぐる技術①―ガンゴジの造形― 92
(1)型と構造
(2)規模
(3)造形の技術
(4)技術の継承
3 ガンゴジをめぐる技術②―ガンゴジの建造― 99
(1)ガンゴジダテの手順
(2)杭を打つ技術
(3)簀を張る技術
(4)簀を編む技術
(5)クチ作りの技術
4 ガンゴジによる漁撈―ガンゴジ漁の実際― 103
(1)ガンゴジ漁(概観)
(2)漁期と建造期間
(3)適地と分布
(4)ガンゴジの材料とその入手
(5)経費と収入
5 ガンゴジをめぐる人間関係―ガンゴジの社会性― 107
(1)漁場と漁業権
(2)ガンゴジ漁の権利
(3)ガンゴジ漁をおこなう人
6 民俗技術としてのガンゴジ①―ガンゴジの系譜― 113
(1)ガンゴジの起源
(2)ガンゴジとウケとの関係
(3)自然認識と漁獲原理
7 民俗技術としてのガンゴジ②―エリ型漁具としての系譜― 117
(1)エリ型漁具にみる技術の専門化
(2)エリ型漁具の展開と生業の分化
Ⅰ-3章 スマキの民俗技術誌―涸沼(茨城県)の迷入陥穽漁法―130
はじめに―スマキ伝承地の概観― 130
(1)スマキを伝える村、下石崎・松川
(2)スマキ漁がおこなわれる湖、涸沼
1 涸沼のスマキ―概観― 132
(1)スマキの伝承
(2)スマキの記録
2 スマキをめぐる民俗技術①―スマキの造形― 135
(1)型と構造
(2)規模
(3)技術の継承
3 スマキめぐる民俗技術②―スマキの建造― 138
(1)スマキダテの手順
(2)杭を立てる技術
(3)簀を張る技術
(4)アゲ作りの技術
4 スマキをめぐる自然認識―スマキダテの技能― 141
(1)風と潮
(2)潮の干満と汽水
(3)ヤワラとミオ
(4)海水魚と淡水魚
5 スマキによる漁撈―スマキ漁の実際― 146
(2)漁の期間
(3)設置する場所
(4)スマキの材料とその入手
(5)経費と収入
6 スマキをめぐる人間関係―スマキの社会性― 149
(1)スマキ漁をおこなう人
(2)スマキを建てる人
(3)スマキを建てる人と使う人の関係
7 民俗技術としてのスマキ①―スマキの系譜― 152
(1)涸沼での独自起源説
(2)他所からの伝播説
8 民俗技術としてのスマキ②―エリ型漁具としての系譜― 158
(1)エリ型漁具の起源
(2)エリ型漁具の展開①―大規模化―
(3)エリ型漁具の展開②―複雑化―
(4)エリ型漁具の展開③―不向きな自然条件の克服―
(5)水田稲作とエリ型漁具の関係―生業史の視点から―
Ⅱ 迷入陥穽漁法を伝える村の生活環境誌169
Ⅱ-1章 エリを伝える村の生活環境誌―琵琶湖岸のくらしと生業―170
はじめに 170
1 稲作をめぐる自然環境―低湿地の意味― 170
(1)木浜の稲作と水田
(2)ホリとギロンの機能
(3)ヨシ場の意義
2 水の制御と崩壊 177
(1)水田水利―制御された水―
(2)ミズゴミ(洪水)―制御できない水―
3 稲作農民の漁撈活動―低湿地の重要性― 179
(1)稲作農民の漁法
(2)稲作農民にとっての漁期
(3)稲作農民の漁場
(4)稲作農民の魚食
4 ホリとギロンの村の複合生業―稲作農民における漁撈の意味― 189
(1)水の制御と漁撈技術―ミズゴミ(洪水)の意味―
(2)稲作と漁撈の複合生業
Ⅱ-2章 ガンゴジを伝える村の生活環境誌―木崎湖岸のくらしと生業―193
はじめに 193
1 稲作をめぐる自然環境―湖と山の意味― 193
(1)三角州とアワラ
(2)湿田の稲作作業
2 生計活動としての漁撈の地位 197
(1)海ノ口における漁撈
(2)漁師と農民の漁撈
(3)漁撈の場と用益
3 農と漁の密接な関係①―水田と漁場の転換― 203
(1)エコトーンと漁場
(2)アワラでの漁撈
(3)水田での漁撈
(4)排水路での漁撈
4 農と漁の密接な関係②―循環するモノ― 206
(1)ナラ(楢)の利用①―カリシキ―
(2)ナラ(楢)の利用②―シバヅケからタボヤへ―
(3)物質とエネルギーの循環
5 アワラの村の複合生業―農民における漁撈の意味― 208
Ⅱ-3章 スマキを伝える村の生活環境誌―涸沼湖岸のくらしと生業―212
はじめに 212
1 ヤツという生業空間 212
(1)ヤツ(谷津)の村
(2)ホンデン(本田)とシンデン(新田)
2 くらしの中の水界 215
(1)汽水湖としての涸沼―出入りする海水―
(2)ヤツダ(谷津田)とヨウスイ(溜池)
3 ヤツの村の水田稲作―漁撈の基盤としての水田― 217
(1)ヤツダの稲作暦
(2)土作りの暦
4 ヤツの村の漁撈―水田用水系の内と外― 220
(1)水田用水系内の漁撈―田・ヨウスイ・ホリの漁―
(2)水田用水系外の漁撈―涸沼・涸沼川の漁―
(3)ヤツの村における漁撈活動の意味
5 ヤツの村の複合生業―農民における漁撈の意味― 223
(1)ヤツにおける水田漁撈の特徴
(2)ヤツの村の生計維持戦略―ヤツの村の農民像―
Ⅲ 迷入陥穽漁法の起源と展開227
Ⅲ-1章 琵琶湖におけるエリの起源と展開―明治17年「魞税取調帳」の解析―228
はじめに 228
1 琵琶湖のエリ―概観― 229
(1)迷入陥穽漁法としてのエリ
(2)伝承地としての琵琶湖
2 エリをめぐる民俗技術 231
(1)エリの建造と経営―エリに関わる人びと―
(2)エリ漁の実際―漁期、漁場、対象魚―
(3)エリの構造と規模
3 「魞税取調帳」に記されたエリの記録 237
(1)所在地(設置数)
(2)税額
(3)規模(縦長・横長)
4 琵琶湖におけるエリの地域性―「魞税取調帳」の解読から― 241
(1)湖南、湖東、湖北、湖西という地域区分
(2)南湖と北湖という地域認識
5 琵琶湖におけるエリの起源―小括①― 248
(1)エリの起源―原初的エリとしてのハネコミ―
(2)エリと稲作の関係
6 琵琶湖におけるエリ漁の展開―小括②― 251
(1)第1ステージ―ヨシ場内の漁―
(2)第2ステージ―ヨシ場と湖面の境界へ―
(3)第3ステージ―湖面への進出―
7 「魞税取調帳」から読むエリの生業史 259
Ⅲ-2章 エリの造形とトウリョウの技術―「明治四十五年 漁場圖綴込帳」の解析―
263
はじめに 263
1 「魞漁場図」の読み方 263
(1)なぜ「魞漁場図」は描かれたか
(2)「魞漁場図」に描かれていること
2 エリの造形を決めるもの―「魞漁場図」の分析― 268
(1)型の存在―多様な型と段数―
(2)立地の影響―湖エリと川エリ―
(3)素材の違い―簀エリと網エリ―
(4)社会とのかかわり―オヤカタと舟通し―
3 トウリョウの技術と在地の技術―「魞漁場図」との対比から― 286
(1)トウリョウの基本技術―ウチマタゲとテンピン―
(2)複雑型と単純型
(3)もっとも複雑度の高い型の消息
(4)特殊型の存在―在地の技術の意味―
4 トウリョウの技術の本質 291
(1)「エリを見れば誰が建てたものかすぐ分かる」という言葉
(2)「エリは美しくなくては駄目」という言葉
(3)「美しいエリ」と「不細工なエリ」―トウリョウの技術と在地の技術の関係―
(4)時流への柔軟な対応―コアユ漁の普及をめぐって―
5 トウリョウとは何か―トウリョウが木浜に誕生した理由― 297
(1)トウリョウの役目
(2)トウリョウが木浜に誕生した理由
Ⅲ-3章 迷入陥穽漁法の起源と展開―木崎湖・琵琶湖・涸沼の比較より―301
はじめに 301
1 淡水湖(小水界)の迷入陥穽漁法―木崎湖のガンゴジ― 302
(1)伝承地としての木崎湖
(2)ガンゴジの漁期と漁場
(3)ガンゴジの構造と規模
2 淡水湖(大水界)の迷入陥穽漁法―琵琶湖のエリ― 306
(1)伝承地としての琵琶湖
(2)エリの漁期と漁場
(3)エリの構造と規模
3 汽水湖の迷入陥穽漁法―涸沼のスマキ― 311
(1)伝承地としての涸沼
(2)スマキの漁期と漁場
(3)スマキの構造と規模
4 迷入陥穽漁法の起源―検証①― 315
(1)迷入陥穽漁法の起源地
(2)迷入陥穽漁法の起源―ウケ・エリ未分化からエリへ―
(3)迷入陥穽漁法の起源と稲作の関係
5 迷入陥穽漁法の歴史的展開―検証②― 317
(1)ヨシ場内の漁―第1ステージ―
(2)ヨシ場と湖面の境界における漁―第2ステージ―
(3)湖面での漁―第3ステージ―
6 迷入陥穽漁法のさまざまな環境への適用―検証③― 324
(1)迷入陥穽漁法の不適地への導入
(2)汽水域への導入
終 論 エリの現代史―ある漁師の経験譚から―328
はじめに 328
1 エリ漁師の経験譚―霞ヶ浦へのエリ導入の失敗― 328
2 経験譚の解読―なぜエリ導入は失敗したのか― 331
(1)自然環境をめぐって
(2)人文環境をめぐって
3 エリをめぐる歴史からの解読 333
(1)「漁師」の変遷―高い漁業者意識の源泉―
(2)直面する現実問題―琵琶湖漁師を霞ヶ浦へ押し出す要因―
4 失敗談の教訓 335
図版一覧339
あとがき345
索 引349
[著者紹介]
安室知(ヤスムロサトシ)1959 年、東京都生まれ。
筑波大学大学院環境科学研究科修了。博士(文学)。長野市立博物館・学芸員、横須賀市自然人文博物館・学芸員、熊本大学文学部・助教授、国立歴史民俗博物館・教授、総合研究大学院大学・教授を経て、現在は神奈川大学国際日本学部・教授および日本常民文化研究所・所員。
専門は、民俗学(生業論・環境論)、物質文化論。(主要な著作)
『水田をめぐる民俗学的研究』(1998 年)、『餅と日本人』(1999 年)、『水田漁撈の研究』(2005 年)、『日本民俗生業論』(2012 年)、『田んぼの
不思議』(2014 年)、『自然観の民俗学』(2016 年)、『都市と農の民俗』(2020 年)、『餅と日本人増補版』(2021 年)、『日本民俗分布諭』(
2022 年)、『日本の民俗全13 巻』(企画編集、2008~9 年)など。
本書は、日本学術振興会の令和7年度科学研究費補助金(研究成果公開促進費)の交付を受けたものである。
序 論 民俗技術誌の提唱―本書の目的―1
1 民俗技術という視点 1
(1)民俗技術とは
(2)民俗技術と創意
(3)民俗技術が作る「自然」
(4)民俗技術にみる循環の思考
(5)民俗技術が志向するもの
(6)方法としての民俗技術誌
2 民俗技術と現代社会 7
(1)文化財としての民俗技術―失われつつあることへの危機感―
(2)民俗技術を研究することの意義―フェイクロア化することへの危惧―
3 エリという民俗技術 9
(1)エリとは
(2)生業史の中の位置づけ―稲作との関係―
(3)3地域のエリ型漁具―琵琶湖、木崎湖、涸沼―
Ⅰ 迷入陥穽漁法の民俗技術誌17
Ⅰ-1章 エリの民俗技術誌―琵琶湖(滋賀県)の迷入陥穽漁法―18
はじめに―エリ伝承地の概観― 18
1 琵琶湖のエリ―概観― 19
(1)「魞の親郷」としての木浜
(2)エリをめぐる権利関係の変遷
(3)エリをめぐる人間関係の変遷
2 エリをめぐる技術①―エリの造形― 25
(1)基本の型と構造
(2)型の決定要因
3 エリをめぐる技術②―エリの建造― 38
(1)トウリョウの役割
(2)エリダテの準備
(3)エリダテの実行
4 エリをめぐる自然認識―トウリョウの自然的技能― 47
(1)エリダテと自然認識(概観)
(2)シオ(潮)とシオミ(潮見)
(3)カゼ(風)とケシキミ(気色見)
(4)セ(瀬)とミズアタリ(水当たり)
(5)魚の生態(トウリョウの認識)
(6)ケントウ(見当)
5 エリをめぐる人間関係―トウリョウの社会的技能― 58
(1)エリが繋げる人と人(概観)
(2)トウリョウとオヤカタ(経営者・出資者)
(3)トウリョウとコカタ(木浜の男衆)
(4)トウリョウとスアミ(木浜の女衆)
(5)トウリョウとタケワリ(木浜の老人)
(6)トウリョウとトウリョウ(縄張りの存在)
(7)トウリョウと漁師(エリ漁師以外)
(8)金銭をめぐる人間模様(テマとシュウギ)
6 民俗技術としてのエリ①―トウリョウの系譜― 74
(1)トウリョウの技術と継承
(2)トウリョウと稲作農民の関係―予察―
7 民俗技術としてのエリ②―エリの系譜― 78
(1)エリの技術・労働・資本
(2)エリの起源と展開―予察―
Ⅰ-2章 ガンゴジの民俗技術誌―木崎湖(長野県)の迷入陥穽漁法―86
はじめに―ガンゴジ伝承地の概観― 86
(1)ガンゴジを伝える村、海ノ口
(2)ガンゴジ漁がおこなわれる湖、木崎湖
1 木崎湖のガンゴジ―概観― 88
(1)ガンゴジという名称
(2)ガンゴジの由来
2 ガンゴジをめぐる技術①―ガンゴジの造形― 92
(1)型と構造
(2)規模
(3)造形の技術
(4)技術の継承
3 ガンゴジをめぐる技術②―ガンゴジの建造― 99
(1)ガンゴジダテの手順
(2)杭を打つ技術
(3)簀を張る技術
(4)簀を編む技術
(5)クチ作りの技術
4 ガンゴジによる漁撈―ガンゴジ漁の実際― 103
(1)ガンゴジ漁(概観)
(2)漁期と建造期間
(3)適地と分布
(4)ガンゴジの材料とその入手
(5)経費と収入
5 ガンゴジをめぐる人間関係―ガンゴジの社会性― 107
(1)漁場と漁業権
(2)ガンゴジ漁の権利
(3)ガンゴジ漁をおこなう人
6 民俗技術としてのガンゴジ①―ガンゴジの系譜― 113
(1)ガンゴジの起源
(2)ガンゴジとウケとの関係
(3)自然認識と漁獲原理
7 民俗技術としてのガンゴジ②―エリ型漁具としての系譜― 117
(1)エリ型漁具にみる技術の専門化
(2)エリ型漁具の展開と生業の分化
Ⅰ-3章 スマキの民俗技術誌―涸沼(茨城県)の迷入陥穽漁法―130
はじめに―スマキ伝承地の概観― 130
(1)スマキを伝える村、下石崎・松川
(2)スマキ漁がおこなわれる湖、涸沼
1 涸沼のスマキ―概観― 132
(1)スマキの伝承
(2)スマキの記録
2 スマキをめぐる民俗技術①―スマキの造形― 135
(1)型と構造
(2)規模
(3)技術の継承
3 スマキめぐる民俗技術②―スマキの建造― 138
(1)スマキダテの手順
(2)杭を立てる技術
(3)簀を張る技術
(4)アゲ作りの技術
4 スマキをめぐる自然認識―スマキダテの技能― 141
(1)風と潮
(2)潮の干満と汽水
(3)ヤワラとミオ
(4)海水魚と淡水魚
5 スマキによる漁撈―スマキ漁の実際― 146
(2)漁の期間
(3)設置する場所
(4)スマキの材料とその入手
(5)経費と収入
6 スマキをめぐる人間関係―スマキの社会性― 149
(1)スマキ漁をおこなう人
(2)スマキを建てる人
(3)スマキを建てる人と使う人の関係
7 民俗技術としてのスマキ①―スマキの系譜― 152
(1)涸沼での独自起源説
(2)他所からの伝播説
8 民俗技術としてのスマキ②―エリ型漁具としての系譜― 158
(1)エリ型漁具の起源
(2)エリ型漁具の展開①―大規模化―
(3)エリ型漁具の展開②―複雑化―
(4)エリ型漁具の展開③―不向きな自然条件の克服―
(5)水田稲作とエリ型漁具の関係―生業史の視点から―
Ⅱ 迷入陥穽漁法を伝える村の生活環境誌169
Ⅱ-1章 エリを伝える村の生活環境誌―琵琶湖岸のくらしと生業―170
はじめに 170
1 稲作をめぐる自然環境―低湿地の意味― 170
(1)木浜の稲作と水田
(2)ホリとギロンの機能
(3)ヨシ場の意義
2 水の制御と崩壊 177
(1)水田水利―制御された水―
(2)ミズゴミ(洪水)―制御できない水―
3 稲作農民の漁撈活動―低湿地の重要性― 179
(1)稲作農民の漁法
(2)稲作農民にとっての漁期
(3)稲作農民の漁場
(4)稲作農民の魚食
4 ホリとギロンの村の複合生業―稲作農民における漁撈の意味― 189
(1)水の制御と漁撈技術―ミズゴミ(洪水)の意味―
(2)稲作と漁撈の複合生業
Ⅱ-2章 ガンゴジを伝える村の生活環境誌―木崎湖岸のくらしと生業―193
はじめに 193
1 稲作をめぐる自然環境―湖と山の意味― 193
(1)三角州とアワラ
(2)湿田の稲作作業
2 生計活動としての漁撈の地位 197
(1)海ノ口における漁撈
(2)漁師と農民の漁撈
(3)漁撈の場と用益
3 農と漁の密接な関係①―水田と漁場の転換― 203
(1)エコトーンと漁場
(2)アワラでの漁撈
(3)水田での漁撈
(4)排水路での漁撈
4 農と漁の密接な関係②―循環するモノ― 206
(1)ナラ(楢)の利用①―カリシキ―
(2)ナラ(楢)の利用②―シバヅケからタボヤへ―
(3)物質とエネルギーの循環
5 アワラの村の複合生業―農民における漁撈の意味― 208
Ⅱ-3章 スマキを伝える村の生活環境誌―涸沼湖岸のくらしと生業―212
はじめに 212
1 ヤツという生業空間 212
(1)ヤツ(谷津)の村
(2)ホンデン(本田)とシンデン(新田)
2 くらしの中の水界 215
(1)汽水湖としての涸沼―出入りする海水―
(2)ヤツダ(谷津田)とヨウスイ(溜池)
3 ヤツの村の水田稲作―漁撈の基盤としての水田― 217
(1)ヤツダの稲作暦
(2)土作りの暦
4 ヤツの村の漁撈―水田用水系の内と外― 220
(1)水田用水系内の漁撈―田・ヨウスイ・ホリの漁―
(2)水田用水系外の漁撈―涸沼・涸沼川の漁―
(3)ヤツの村における漁撈活動の意味
5 ヤツの村の複合生業―農民における漁撈の意味― 223
(1)ヤツにおける水田漁撈の特徴
(2)ヤツの村の生計維持戦略―ヤツの村の農民像―
Ⅲ 迷入陥穽漁法の起源と展開227
Ⅲ-1章 琵琶湖におけるエリの起源と展開―明治17年「魞税取調帳」の解析―228
はじめに 228
1 琵琶湖のエリ―概観― 229
(1)迷入陥穽漁法としてのエリ
(2)伝承地としての琵琶湖
2 エリをめぐる民俗技術 231
(1)エリの建造と経営―エリに関わる人びと―
(2)エリ漁の実際―漁期、漁場、対象魚―
(3)エリの構造と規模
3 「魞税取調帳」に記されたエリの記録 237
(1)所在地(設置数)
(2)税額
(3)規模(縦長・横長)
4 琵琶湖におけるエリの地域性―「魞税取調帳」の解読から― 241
(1)湖南、湖東、湖北、湖西という地域区分
(2)南湖と北湖という地域認識
5 琵琶湖におけるエリの起源―小括①― 248
(1)エリの起源―原初的エリとしてのハネコミ―
(2)エリと稲作の関係
6 琵琶湖におけるエリ漁の展開―小括②― 251
(1)第1ステージ―ヨシ場内の漁―
(2)第2ステージ―ヨシ場と湖面の境界へ―
(3)第3ステージ―湖面への進出―
7 「魞税取調帳」から読むエリの生業史 259
Ⅲ-2章 エリの造形とトウリョウの技術―「明治四十五年 漁場圖綴込帳」の解析―
263
はじめに 263
1 「魞漁場図」の読み方 263
(1)なぜ「魞漁場図」は描かれたか
(2)「魞漁場図」に描かれていること
2 エリの造形を決めるもの―「魞漁場図」の分析― 268
(1)型の存在―多様な型と段数―
(2)立地の影響―湖エリと川エリ―
(3)素材の違い―簀エリと網エリ―
(4)社会とのかかわり―オヤカタと舟通し―
3 トウリョウの技術と在地の技術―「魞漁場図」との対比から― 286
(1)トウリョウの基本技術―ウチマタゲとテンピン―
(2)複雑型と単純型
(3)もっとも複雑度の高い型の消息
(4)特殊型の存在―在地の技術の意味―
4 トウリョウの技術の本質 291
(1)「エリを見れば誰が建てたものかすぐ分かる」という言葉
(2)「エリは美しくなくては駄目」という言葉
(3)「美しいエリ」と「不細工なエリ」―トウリョウの技術と在地の技術の関係―
(4)時流への柔軟な対応―コアユ漁の普及をめぐって―
5 トウリョウとは何か―トウリョウが木浜に誕生した理由― 297
(1)トウリョウの役目
(2)トウリョウが木浜に誕生した理由
Ⅲ-3章 迷入陥穽漁法の起源と展開―木崎湖・琵琶湖・涸沼の比較より―301
はじめに 301
1 淡水湖(小水界)の迷入陥穽漁法―木崎湖のガンゴジ― 302
(1)伝承地としての木崎湖
(2)ガンゴジの漁期と漁場
(3)ガンゴジの構造と規模
2 淡水湖(大水界)の迷入陥穽漁法―琵琶湖のエリ― 306
(1)伝承地としての琵琶湖
(2)エリの漁期と漁場
(3)エリの構造と規模
3 汽水湖の迷入陥穽漁法―涸沼のスマキ― 311
(1)伝承地としての涸沼
(2)スマキの漁期と漁場
(3)スマキの構造と規模
4 迷入陥穽漁法の起源―検証①― 315
(1)迷入陥穽漁法の起源地
(2)迷入陥穽漁法の起源―ウケ・エリ未分化からエリへ―
(3)迷入陥穽漁法の起源と稲作の関係
5 迷入陥穽漁法の歴史的展開―検証②― 317
(1)ヨシ場内の漁―第1ステージ―
(2)ヨシ場と湖面の境界における漁―第2ステージ―
(3)湖面での漁―第3ステージ―
6 迷入陥穽漁法のさまざまな環境への適用―検証③― 324
(1)迷入陥穽漁法の不適地への導入
(2)汽水域への導入
終 論 エリの現代史―ある漁師の経験譚から―328
はじめに 328
1 エリ漁師の経験譚―霞ヶ浦へのエリ導入の失敗― 328
2 経験譚の解読―なぜエリ導入は失敗したのか― 331
(1)自然環境をめぐって
(2)人文環境をめぐって
3 エリをめぐる歴史からの解読 333
(1)「漁師」の変遷―高い漁業者意識の源泉―
(2)直面する現実問題―琵琶湖漁師を霞ヶ浦へ押し出す要因―
4 失敗談の教訓 335
図版一覧339
あとがき345
索 引349
[著者紹介]
安室知(ヤスムロサトシ)1959 年、東京都生まれ。
筑波大学大学院環境科学研究科修了。博士(文学)。長野市立博物館・学芸員、横須賀市自然人文博物館・学芸員、熊本大学文学部・助教授、国立歴史民俗博物館・教授、総合研究大学院大学・教授を経て、現在は神奈川大学国際日本学部・教授および日本常民文化研究所・所員。
専門は、民俗学(生業論・環境論)、物質文化論。(主要な著作)
『水田をめぐる民俗学的研究』(1998 年)、『餅と日本人』(1999 年)、『水田漁撈の研究』(2005 年)、『日本民俗生業論』(2012 年)、『田んぼの
不思議』(2014 年)、『自然観の民俗学』(2016 年)、『都市と農の民俗』(2020 年)、『餅と日本人増補版』(2021 年)、『日本民俗分布諭』(
2022 年)、『日本の民俗全13 巻』(企画編集、2008~9 年)など。
本書は、日本学術振興会の令和7年度科学研究費補助金(研究成果公開促進費)の交付を受けたものである。

